倒木の責任

先日、3年ぶりに上陸した台風15号により、関東地方では多大な被害が生じました。千葉県などでは本日も停電が続いていると聞いており、早期の復旧を望むばかりです。

さて、台風の際には、倒木によって家屋等が損壊した場合、誰が責任を負うのかと問題が生じます。樹木の所有権は、通常その木が生えている土地の所有者に属するため(民法242条)、土地の所有者は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合には、その損害を賠償する責任があります(同717条2項)。この責任は無過失責任となるため、所有者が「自分は管理責任を尽くしていた」と主張しても、責任を免れることはできません。

では、「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」というのは、どのような場合を指すのでしょうか。これについては、東京地裁平成21年9月9日判決が参考になります。この事案は、台風の到来によって樹木が倒壊し、建物が損壊したというものですが、裁判所は、①樹木の根株が不足して支持根が全くない状態であったこと(樹木医の調査結果によるものと思われます。)、②当該樹木以外に倒木が全くなかったことから、「通常吹くことがあり得る程度の風によって根元から横倒しになる蓋然性のある状態に至ったときは、通常竹木の有する安全性を欠き、栽植又は支持に瑕疵がある場合に該当する」との判断基準を示し、「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にあたることを認めました。

今後、地球温暖化の影響によって、猛烈な勢力を持つ台風が日本列島に上陸することは多くなるものと考えられますので、倒木による建物の損壊事案もそれにつれて多くなると思われます。思わぬ責任を負う事態を避けるためにも、敷地内の樹木のリスク管理(定期的な伐採など)は十分に注意が必要になるでしょう。

「倒木の責任」への11件のフィードバック

  1. 赤尾さゆり

    5年前に隣の土地の木が倒れてきて、新車のフロントガラスが割れました。土地の持ち主に修理をお願いしましたが、お見舞い金3万円で済まされ、自分の保険で修理しました。今からでも訴えられますか?

    1. 赤尾様

      5年前の事件であれば、消滅時効期間が経過しているため、難しいものと思われます。

  2. 2024年8月29日の台風で台風の前日に市が管理している公園の駐車場の停めていた自家用車なんですが台風が過ぎた後に車を取りに行った所、古い大木が車両に倒木しており全損位に大破していました。
    市の公園担当者は台風などでは市民総合賠償保険は降りない、車両保険は入ってないのですか?
    公園側は倒木はどかせるので車両はどかせてくださいと言ってきましたが
    市の方は車両同等品などを賠償する責任はないのでしょうか?

    当方としては車両同等品50万相当を弁済してもらえばそれでいいと伝えて、その後に現在調査中なのでお待ちくださいと連絡が有り、9月24日に電話連絡があり今回台風では他にもいろいろ被害が出ているが、市町村が加入している保険会社の担当や弁護士などとも相談しましたが今回の当方の倒木の車両について賠償する事はないと言われました、
    当方は倒木した大木は半分腐っていたこと等も含め公園が管理していた市役所の方に賠償して貰いたく相談しました。

    1. 稲富 様

      当時の風速にもよりますが、周囲の被害があることは、因果関係の認定に否定的な事情となり得ると思います。

      1. 倒れて当方の自家用車を潰した大木は素人目にも腐っているのですが公園側の管理怠慢を追求して賠償請求できませんか?公園には管理事務所も有り人件費その他税金で賄われていると思います。

      2. 台風倒木の被害賠償の件について賠償責任有りや賠償責任無し、瑕疵の有り無しなどは誰の判断に委ねるのでしょうか?
        裁判所の裁判長が薄れゆく台風被害の記憶を元に判断されますか?

        1. 稲富 様

          瑕疵の有無及び賠償責任の有無は裁判長に委ねられますが、当該判断の基礎は両当事者の提出した証拠に基づきます。
          ご事情を拝察するに、保険会社が調査を行っている以上何らかの書面が作成されたと予想されます。
          とすると、損害賠償を請求する側も相当な根拠を示して立証する必要があり、立証活動の負担が想定されます。
          このことと被害金額を考えると、弁護士として受任が難しい事案と思われます。
          よろしくお願いいたします。

          1. 保険会社が調査を行い、大木が腐っている事を証明できればこちらに有利に働きます。以下の文章が捏造など無い民法の文章そのままであるかを教えてください。

            台風の際には、倒木によって家屋等が損壊した場合、誰が責任を負うのかと問題が生じます。樹木の所有権は、通常その木が生えている土地の所有者に属するため(民法242条)、土地の所有者は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合には、その損害を賠償する責任があります(同717条2項)。この責任は無過失責任となるため、所有者が「自分は管理責任を尽くしていた」と主張しても、責任を免れることはできません。

            上記の倒木についての条文などは無いと昨日相談に行った県弁護士会の弁護士に言われました。
            毎度ご返答ありがとうございます。

  3. 何度もすみませんが、今度は市役所側が国家賠償法と民法では国家賠償法の方が範囲が広く適用されると言ってきたのですが。
    そうなると国家賠償法では台風関連では賠償しなくて良いなので賠償しなくて良くなるのでしょうか?
    相手が市役所だからそうなるわけで一般人の場合は民法という事になるのでしょうか?

    1. 稲富様

      市役所側の言動の詳細は分かりかねますので、ご質問に正確には回答できません。
      なお、国家賠償法1条1項は公権力の行使に基づく賠償責任を定めており、公権力の行使に該当しない場合の
      国又は地方公共団体の責任には民法709条が適用されます。
      国家賠償法2条1項も公の営造物の設置保管の瑕疵に関する責任を定めたもので、公の営造物に該当しない場合の
      国又は地方公共団体の責任には民法717条が適用されます。
      このことは、国家賠償法4条に定められております。
      市役所側の主張はこのことを指すものと推察されます。

      なお、大変申し訳ございませんが、当職としても業務の都合があります。
      これ以上のご質問につきましては、当事務所での対面での有料相談(30分当たり5,500円)
      をご利用くださいますようお願いいたします。

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