「業務日記」カテゴリーアーカイブ

民法改正⑥(保証)

従来、中小企業向けの融資においては、主債務者の経済的信用を補完する役割として、保証制度が利用されてきました。

しかし、経営者との個人的な関係から安易に保証人となった者が、想定外の多額の保証債務の履行を求められ、生活が破綻する事例が後を絶ちませんでした。

そこで、改正法は、事業用融資における第三者による個人保証について、公証人による意思確認手続を取ることを成立要件としました。なお、経営者に類する者の個人保証については規制の対象とはなりませんでした。

ここで重要なのは、保証契約が公正証書である必要はないということです。あくまで、保証人となる意思を公証人が確認する必要があるだけです。

公証人は、保証人になろうとする者が保証しようとしている主債務の具体的内容を認識していること、保証債務の意味を理解しているかを検証し、保証契約のリスクを十分に理解した上で、保証人が相当の考慮をして保証契約を締結しようとしているか否かを見極めるとされています。特に、改正法によって導入された主債務者の情報提供義務に基づいてどのような情報の提供を受けたかも確認し、保証人がリスクを十分認識しているかを見極める必要があるとされました。

本制度によって、第三者の生活が破綻することは無くなるのでしょうか?公証人の運用次第とはいえ、保証債務の成立に利害関係を有さないから適正な運用が期待できる、と言い切れるかによるように思います。

 

 

民法改正⑤(賃貸借)

今回、賃貸借契約に関する規定にも改正があります。従来の判例が認めていた内容が明文化されたとはいえ、これによって当事者間の紛争解決がスムーズになるという効果はあると思います。主な改正は以下のとおりです。

① 不動産の賃借人に不法占拠者に対する妨害排除請求権及び返還請求権が認められました(新法605条の4)。

② 賃借人にも一定の要件のもと修繕の権利が認められました(新法607条の2)。古い物件で、賃貸人が修理を渋っている時に有効と思われます。

③ 敷金の規定が新設されました(新法622条の2)。敷金とは、「いかなる名目によるのかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」とされました。この中で重要なのは担保の目的となります。今後は、敷金以外の金銭の交付(礼金)については、担保の目的がないことを明確にする必要があると思われます。

④ 賃借人の原状回復義務に、通常損耗及び経年劣化が含まれないことが明確になりました(新法621条)。なお、家具の設置による床・カーペットのへこみ、電化製品の後部壁面の黒ずみ(電気焼け)などは通常損耗に含まれると解される一方で、引っ越し作業のひっかきキズ、タバコのヤニ、ペットによるキズ、日常の不適切な手入れによる毀損は含まれないと解されております。

民法改正④(瑕疵担保責任)

 今回の民法改正では、従来瑕疵担保責任と呼ばれる分野が大きく改正されました。これまでは、売買の目的物を特定物と不特定物に分類し、特定物の売買における瑕疵についての責任を瑕疵担保責任として処理してきました(特定物ドグマ)。今回、この特定物ドグマという考え方は改められ、売主は契約の内容に適合した目的物を引き渡す義務を負うとされ、買主は損害賠償請求の他、修補や代替物の引き渡し、代金減額請求が出来るという条文が追加されました。

 例えば、100万円で中古自動車を購入するという売買契約の場合、これまでは自動車に問題があったとしても、損害賠償請求という形でしか請求できませんでしたが、改正法では買主に対して修理を求めることも、同程度の別の中古車の引き渡しを求めることも(法的には)可能になったということです。

 しかしながら、細かい部分の議論は裁判例によって決着せざるを得ません。上記の例でいえば、買主から代替物として別の自動車の引き渡しを求められた場合、売主がそれに従う義務があるのか、修理の申し出をして代替物の引き渡しを拒むことができるのか(新法562条1項ただし書)あるいはその逆の相談(中古自動車ディーラーであれば代替物の引き渡しの方が容易かもしれません。)が頻発するように思います。トラブルの回避には、趣旨には逆行しますが、個人間売買でも瑕疵担保責任条項の排除及び事前の重要事項説明が必要となってくると考えます。

 上記の例で挙げた自動車のように、一見すると工業製品として性質が均一なように見えても、年式、グレード、車体の色、走行距離、修理歴、ワンオーナーかどうか(譲渡歴)といった様々な差異があり、しかもその差異が販売価格(買取価格)に影響しているという実態や、工業製品の電子化が進み容易に修理を行えない実態がある中で、今回の改正が取引実務に対してどのような影響を及ぼすのか、今後の裁判例の集積を待つ外ないのかもしれません。

民法改正③(法定利率の変更)

 これまで民法の定める法定利率は5%でしたが、市中金利を大きく上回る状態が続いており、利息や遅延損害金の額が多額になる一方で、中間利息の控除の場面では不当に賠償額が抑えられるなど、当事者間の公平を害するという理由から、改正法の施行時に3%にまで引き下げられることになります。

 改正理由の1つ目は分かりやすいですが、2つ目の中間利息の控除というのは主に交通事故によって後遺症が生じたときに問題となるものです。後遺症による逸失利益は、事故時の年収、労働能力喪失率及び喪失期間を基準として算定されますが、将来得られたはずの収入の価値と現在の価値は同じではないため、現在の価値へ引き直す必要があります。具体的には、金銭は法定利率による運用が可能であると考えて、1年ごとに5%の利息を控除していくことになります。

 例えば、1年後に100万円の収入があるとした場合、現時点での当該収入の価値は95万2380円(小数点以下切り捨て)になります。しかし、そもそも5%の利息という想定は現実的ではなく(銀行の預金金利を考えれば明白ですね。)、それだけ被害者の得られる利益が低く見積もられているということになります(上記の例で法定利率が3%となった場合、現時点での価値は97万0873円に増加します。)。したがって、法定利率の引下げは、逸失利益の算定に当たっては被害者側に有利に働くことになります。特に若年者に重大な結果が生じた事故では、損害額に2000万円もの差が生じるという算定もあるので、慎重な検討が必要となるでしょう。

 なお、これまで法定利率は固定金利でしたが、改正後は3年をめどにした変動制になります。また、6%と定められていた商事法定利率は廃止されます。

 

民法改正②(新たな完成猶予事由の制定)

 新たな民法では、当事者が権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によってなされた場合は、最大1年間時効の完成が猶予されるという規定が新設されました。

 これは、当事者が裁判所を介さずに紛争の解決に向けて協議をし、解決策を模索している場合にも、時効完成の間際になれば、時効の完成を阻止するため訴訟を提起しなければならない実情が、紛争解決の柔軟性や当事者の利便性を損なうとして、新たな完成猶予事由として設けられたものです。

 やっかいなのは、債務承認が時効期間の更新事由に当たるということです。債務の承認は黙示的なものでもよいとされており、当事者間の協議が債務承認と協議の合意のいずれに該当するかによっては、消滅時効の完成を看過することにもなりかねません。

 気になるのは、催告や承認といった当事者の一方的意思表示とは異なり、書面又は電磁的記録による合意が必要となることです。あまり厳格に解釈すると、1年間の完成猶予すら認められず不測の損害を被る可能性もあります。今後の展開に注意が必要でしょう。

民法改正①(消滅時効)

 2020年4月1日から民法が改正されることになりましたが、これを受けて私たち弁護士の間でも改正法の勉強会が進んでおります。

 改正される民法は債権法と呼ばれる分野で、契約の成立や損害賠償といった様々な分野に影響があるため、きちんと改正内容を確認する必要があります。これまでの判例を明文化した改正が多いとはいえ、細かい部分で新しいルールが定められているため、注意が必要です。

 例えば、消滅時効については、特定の職業に関する債権について短期の消滅時効が定められておりましたが(現行170条から174条)、これを廃止して全て知った時から5年の消滅時効となりました(主観的時効。新166条。ちなみに、弁護士報酬は2年でした。)。その上で、権利を行使できる時から10年という長期の消滅時効が導入されました(客観的時効)。

 そして、不法行為による損害賠償請求についての消滅時効は、知った時から3年、不法行為の時から20年となりました(20年の期間を消滅時効と明言したことに意味があります。これまでは除斥期間といって、時効の主張の有無に関わらず権利行使が認められないと解されておりました。)。

 ただし、生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、債務不履行責任による請求を含めて知った時から5年、権利を行使できる時(不法行為の時)から20年となります(新法167条、724条の2)。

 「権利を行使できる時」と「不法行為の時」という文言は違いますが、「不法行為の時」とは不法行為の成立要件充足時を指すと解されているので、実質的には両者は同じ意味になります。したがって、生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、法律構成によって消滅時効の期間に差はなくなったということなります。

倒木の責任

先日、3年ぶりに上陸した台風15号により、関東地方では多大な被害が生じました。千葉県などでは本日も停電が続いていると聞いており、早期の復旧を望むばかりです。

さて、台風の際には、倒木によって家屋等が損壊した場合、誰が責任を負うのかと問題が生じます。樹木の所有権は、通常その木が生えている土地の所有者に属するため(民法242条)、土地の所有者は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合には、その損害を賠償する責任があります(同717条2項)。この責任は無過失責任となるため、所有者が「自分は管理責任を尽くしていた」と主張しても、責任を免れることはできません。

では、「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」というのは、どのような場合を指すのでしょうか。これについては、東京地裁平成21年9月9日判決が参考になります。この事案は、台風の到来によって樹木が倒壊し、建物が損壊したというものですが、裁判所は、①樹木の根株が不足して支持根が全くない状態であったこと(樹木医の調査結果によるものと思われます。)、②当該樹木以外に倒木が全くなかったことから、「通常吹くことがあり得る程度の風によって根元から横倒しになる蓋然性のある状態に至ったときは、通常竹木の有する安全性を欠き、栽植又は支持に瑕疵がある場合に該当する」との判断基準を示し、「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にあたることを認めました。

今後、地球温暖化の影響によって、猛烈な勢力を持つ台風が日本列島に上陸することは多くなるものと考えられますので、倒木による建物の損壊事案もそれにつれて多くなると思われます。思わぬ責任を負う事態を避けるためにも、敷地内の樹木のリスク管理(定期的な伐採など)は十分に注意が必要になるでしょう。

事業承継の難しさ

現在日本の中小企業が後継者不足で次々と廃業しており、このままでは雇用や経済活動にも悪影響となるとして、様々な士業が事業承継支援活動に参入している状況です。

弁護士は、いつものとおりというか、参入に遅れております。高いというイメージがあるのかもしれませんし、紛争がないから必要性が感じられないというのかもしれません。

一説によれば、事業承継の買い手側300件に対しての売り手側の人数は100件だそうです。 売り手が圧倒的に足りていないことになります。売り手側の事業者は自分の会社に譲渡するだけの価値を感じていないのがこうした数字に表れているという指摘もあります。一方で、事業承継という手段を知らないために廃業という選択肢を取っているのではないかともいわれております。

一定規模のM&Aにあるような、成立した場合の報酬のような目に見えるインセンティブがないため、各種専門家に積極的な関与を求めにくいという本音も、一定の説得力があるように思えます。

事業承継を成功させるには、各種専門家の関与が必要なのはいうまでもないことですが、それ以上に成立に向けて推進力を発揮する存在が必要です。それが誰かを簡単に見いだせないところに、事業承継の難しさがあるように思います。

法務局保管遺言(勝手に命名)という選択肢

 これまで、弁護士が遺言の作成を勧める場合、自筆証書遺言よりは公正証書遺言が良いと言われてきましたが(「専門家が公正証書遺言を勧める理由」)、平成32年7月10日以降は、自筆証書遺言を法務局に保管することも検討する必要があります。
 平成32年7月10日に施行される法務局における遺言書の保管等に関する法律(平成30年法律第73号。遺言書保管法)は、 一定の要件を満たした自筆証書遺言(ここでは、法務局保管遺言とします。)を法務局で保管するという制度ですが、この法務局保管遺言は、自筆証書遺言なのに検認が不要とされます(法11条)。

 更に、遺言書保管法と並行して行われた民法改正により、自筆証書遺言のうち財産目録の自筆が不要とされ、より簡易に自筆証書遺言が作成できるようになりました(民法968条 こちらは平成31年1月19日に施行済)。こうなると、今後は、遺言の作成の相談を受けた際に単純に公正証書遺言を勧めるだけでは問題がありそうです。では、公正証書遺言と法務局保管遺言、それぞれどのように使い分ければいいのでしょうか。法務局保管遺言の方式が固まっていない状況ですが、少し考えてみたいと思います。

 まず、本文を書くことができない状態であれば、公正証書遺言によらざるを得ないでしょう。また、法務局保管遺言は法務局に本人が出頭する必要があるので(法4条6項)、入院や入所によって出頭が困難な場合も公正証書遺言が利用しやすいといえます。なお、当然遺言能力は必要です。

 それ以外の場合は、公正証書遺言と法務局保管遺言の優劣はあまり考えられないように思われます。公正証書遺言は証人2人が必要となり、作成手数料も必要になります。他方で、法務局保管遺言にしても、全ての法務局が遺言を保管するかどうかは不明ですし、額は不明ですが手数料を収める必要もあります。遺言者の身体的的状況、遺言内容等を踏まえて検討してゆく必要がありそうです。