民法及び家事事件手続法が改正され、後見事務の円滑化のため、後見人の権限について2点の変更がありましたが、平成28年10月よりこれらの改正が施行されました。
・成年後見人による郵便物の管理(民法860条の2)
成年後見人は、その事務を行うにあたって必要があると認めるときは、家庭裁判所に対し、被後見人宛の郵便物について、信書の送達の事業を行う者に対し、成年後見人に配達するよう嘱託することを請求できるようになりました。配達の期間は6か月を超えることはできず、期間延長を望む場合は改めて家庭裁判所に請求をすることになります。また、成年後見人は郵便物の閲覧ができるものの、成年後見事務に関しないものは速やかに被後見人に交付しなければならず、被後見人は、後見人が受け取った郵便物の一覧の閲覧を求めることができるとされております。
郵便物の管理については、親族が後見業務に協力的でなく、財産目録記載の財産以外にも財産があると見込まれる場合には有効だと思われます。しかし、そうでない場合、金融機関、年金、健康保険・介護保険、固定資産税等の典型的な書類については、送付先の変更届によって後見人宛てに書類が届くようになりますので、有用性は微妙なところがあります。それだけでなく、通信の秘密との関係から、成年後見事務に関しないもの(誰が判断するのでしょうか?)は速やかに被後見人に交付する必要があるなど、後見人にとっては負担となり得る規定も含まれているので、本申立を行うかはよくよく検討が必要と思われます。
・被後見人死後の事務(民法873条の2)
相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、特定の財産の保存行為、弁済期が到来した債務の弁済、死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結ができるようになりました。ただし、死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結については家庭裁判所の許可が必要となります。
従来、相続人が遠隔地に住んでおり即座に対応できない状況では応急処分によってこれらの行為を行っておりましたが、本法によって後見人の業務が明確化されたことになります。なお、被後見人が債務超過の場合、債務の弁済によって相続放棄が認められなくなる可能性があるので、注意が必要とのことです。相続放棄の点については、後見人が個人財産で弁済すれば回避できると思われますが、割合弁済のリスクを負う後見人は少ないのではないか、と思われます。
また、火葬と埋葬については規定がありますが、葬儀そのものについては規定がありません。葬儀については、従来の応急処分や事務管理によって処理されてきた事務であり、本改正によってそれらの適用が排除されたわけではないと解されており、後見人が葬儀を行えないという事にはならないように思われます。