先月16日に、法務省が遺産分割で配偶者の優遇を図る民法改正案を22日召集の通常国会に提出する方針を固めた事がニュースになりました。この優遇策の一つとして、短期・長期居住権の創設が挙げられます。

法務省のホームページによると、①被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合で、②居住していた建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をする必要がある場合、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日までの間居住建物の所有権を相続により取得した者に対し,居住建物について無償で使用する権利を与えるというもので、これが短期居住権といわれるものになります。

そもそも、相続開始後の共同相続人からの明渡請求に関しては、共同相続人の一人が相続開始前から許諾を得て居住していた時には、特段の事情のない限り相続開始後も、遺産分割により建物の所有関係が確定するまでの間同居の相続人に無償で使用させる旨の合意があったとする判決(最高裁平成8年12月17日)があります。この判決は、「共同相続人の一人」とあるだけで対象を配偶者に限定していませんし、6か月という期間も設定しておりません。つまり、既に短期居住権よりも厚い保護が存在するのです。

そうなると、改めて短期居住権を創設するということは、従来の判例によって保護されていた内容を否定するという結論を導きかねません。例えば、被相続人が精神的に問題を抱える子と同居している事例では、上記判決の下では遺産分割までの居住が保証されるのに対し、短期居住権の創設によって上記判決が否定されたとなれば、直ちに退去するか、相応の対価を支払うことを求められることになりますが、その結論が妥当であるとは到底思えません。かといって、上記判決と短期居住権は両立するというのであれば、短期居住権の創設の意味は立法府による判例の追認でしかなく、とても「配偶者保護」と呼べるものではないでしょう。

本来短期居住権による保護は、被相続人が建物を第三者に遺贈するなどして、従来無償で居住していた配偶者等が第三者から立ち退きを求められるといった場合にこそ求められるように思われます。上記判決でも、短期居住権でも、この点については考慮されておりませんが、本来的に議論が必要なのはその部分ではないでしょうか。